ペットの病気図鑑

あなたのペットと見比べてみませんか?

本当に爪が剥がれただけ?? それ指にできた腫瘍かも⁉︎

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文:オタ福

今回は『指にできた腫瘍と断指手術について』です。
本症例は病変発生時12歳の猫ちゃんです。この子の初期症状は『爪が剥がれる』、『出血』など我々が想像している腫瘍の"ボコッとしたしこり"とはかけ離れています。

実は指に発生する腫瘍の多くは『扁平上皮癌』と呼ばれる腫瘍であり、この腫瘍は他の腫瘍とは異なって、体を"えぐるように"増殖している特徴を持っています。そのため、ボコッとしたしこりではなく、爪が剥がれたり出血などの症状が見られるのです。
この指に発生する腫瘍がどのようなものなのかを今回ご紹介したいと思います。

 

【目次】

 

 

【基本情報】

・品種 ロシアンブルー 
・年齢 発症時12歳 現在13歳
・性別 オス(去勢済み)
・症状 左後ろ脚第2指
・既往歴 2011年と2016年にストラバイト結石

臨床経過
2017年
左後ろ脚の第2指の爪が抜ける。その後、爪が割れて生えてくるようになる。

2019年2月

割れて生えていた爪が抜けて出血しばらく血が固まった状態が続く。ある時固まった血が剥がれて出血。その時には肉が見えているような傷になっていた。
当初は、ただの傷として、しばらく塗り薬や飲み薬を処方されていた。

2019年4月

病理検査で扁平上皮癌と診断を受けた。25日に外科手術をし、第2指を切断。今のところ、転移、再発はない。

備考
爪はもともとかなりの巻き爪で、全肉球が角化というか、肉球から爪のようなものが生えている状態の猫です。どこの病院へ連れて行っても、猫でこの状態の肉球は初めて見ると言われます。

【猫の指にできる腫瘍について】

まずは猫の指端に発生する腫瘍について解説します。

『断指手術を行なった85匹の猫から分かること』

この論文の概要
まずは以下の論文を見て頂きたいです。下記に引用を掲載している論文では断指手術を行なった猫85匹の病理検査結果について報告をまとめた論文となっています。
断指を行なった猫85匹のうち腫瘍性疾患であった症例は63匹でした。残りの22匹は炎症でした。

63匹の猫、どんな腫瘍ができている?
63匹の猫で発生している腫瘍を発生率の高い順に並べていきたいと思います。
・扁平上皮癌(23.8%:63匹中15匹)
・線維肉腫(22.2%:63匹中14匹)
・腺癌(20.6%:63匹中13匹)
・骨肉腫(7.9%:63匹中5匹)
・血管肉腫(7.9%:63匹中5匹)
・肥満細胞腫(6.3%:63匹中4匹)
・血管腫(3.2%:63匹中2匹)
・骨巨細胞腫(3.2%:63匹中2匹)
・悪性線維性組織球腫(3.2%:63匹中2匹)
・基底細胞腫(1.6%:63匹中1匹)
・未分化肉腫(1.6%:63匹中1匹)

このような順番になっています。赤字で記しているのは悪性腫瘍です。そして、1匹だけ線維肉腫と腺癌を併発している猫がいたため、数字の合計は延べ64匹となっています。

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Squamous cell carcinoma was the most commonly identified malignant tumor (n = 15; 23.8%) and was associated with a median survival time of 73 days. Other diagnoses included fibrosarcoma (n = 14; 22.2%); adenocarcinoma, likely metastases of a primary pulmonary neoplasm (n = 13; 20.6%); osteosarcoma (n = 5; 7.9%); mast cell tumor (n = 4; 6.3%); hemangiosarcoma (n = 5; 7.9%); malignant fibrous histiocytoma (n = 2; 3.2%); giant cell tumor of bone (n = 2; 3.2%); and hemangioma (n = 2; 3.2%).  引用文献:Diagnoses and Clinical Outcomes Associated with Surgically Amputated Feline Digits Submitted to Multiple Veterinary Diagnostic Laboratories

この論文から分かること
猫の指に発生して腫瘍で多いのは
1位:扁平上皮癌(23.8%)
2位:線維肉腫(22.2%)
3位:腺癌(20.6%)
であるということです。

そして、指に発生する腫瘍は63症例中60症例が悪性腫瘍であったことから、猫の指に発生する腫瘍の大半(95%)は悪性腫瘍であることがわかりました。

『肺がんの転移は指に出やすい』

 

【本症例を見ていく】

『指にできる扁平上皮癌の症状』

「一般的な症状は?」

まずは一般的に報告されている症状についてお話をしていきたいと思います。

論文の報告によると
指に扁平上皮癌が発生した猫の症例では指の末端部が腫脹(腫れること)し、扁平上皮癌を示す半数の症例では爪床の潰瘍に伴い、爪が剥がれ落ちていたと報告されています。

The amputation specimens showed a swollen distal part of the digit. In three cases the nail was lost with subsequent ulceration of the nailbed. 引用文献:Primary and metastatic carcinomas in the digits of cats

 

教科書にある写真では←閲覧注意
教科書に載っている写真では犬の写真になってしまいますが、指に発生した扁平上皮癌は以下のような見た目になります。

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出典:Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 316p, Figure18-6

【写真1】犬の指に発生した扁平上皮癌の様子

爪は剥がれ落ち、爪床では潰瘍が認められます。犬の写真ですが、猫でも同様の病変が認められます。
 

「本症例で見られた症状」

今回、お写真が残っていなかったため、症状を写真で見ることはできませんが、飼い主さんより頂いた情報をまとめると以下のようになります。

本症例では
・爪が剥がれ落ちる
・出血
・爪床下にある肉が露出
など、写真1と似たような症状が見られています。

扁平上皮癌は一般的な腫瘍のようにモリモリと塊を作るような増殖をするというよりも、深部へえぐっていくような増殖形態を取ることが多く、今回の症状のように見えてしまいます。

【病理検査の結果】

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【写真2】手術前の病理診断の結果

病理診断の結果、『扁平上皮癌』という結果になりました。
扁平上皮癌とは表皮にある角化細胞が腫瘍化したもので、角質を多く産生するのが特徴的な腫瘍です。
前々項でお話しした通り、指で発生する腫瘍はやはり扁平上皮癌が多いようです。
断指手術を受ける前に行なった検査です。

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【写真3】術後の病理検査~指と膝窩リンパ節~

断指手術と共に領域リンパ節(腫瘍細胞が最初に流入するリンパ節)の切除を行い、病理検査を行なっています。
この術後の病理検査の結果から、重要視すべき点は主に5つあります。

重要視すべき5つの所見
①悪性度の高い扁平上皮癌であること
②マージンはギリギリ確保されていること
③骨破壊や周辺組織に浸潤していること
④腫瘍細胞のリンパ管内浸潤が認められること
⑤膝窩リンパ節には腫瘍細胞が認められないこと
この5つが病理検査所見から読み取るべき重要項目になります。

この5つの所見から現在の状態を説明すると、
『非常に悪性度の高い扁平上皮癌が存在していました。手術を行うと、原発巣の切除はできています。領域リンパ節には転移はしていないようですが、リンパ管内に腫瘍細胞がいるため、予後には注意が必要です』
ということになります。

 

『術後の様子(閲覧注意、傷の写真出ます)』

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【写真4】手術直後の傷口の様子

本症例は2019/4/25に左後肢第2指の切断手術を行いました。この断指手術を終えた直後の傷口に様子です。

 

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【写真5】抜糸直前の様子

抜糸をするためには傷口がちゃんと塞がっていて、化膿していない状態であることが大切です。無事に回復していますね。

【予後について】

『論文的には生存期間は〇〇日間』

指原発の扁平上皮癌の生存期間中央値は206日(29.5週間)という報告があります。もちろん、断指手術を行った際の数字ですよ。

The prognosis of metastases of a pulmonary carcinoma in the digits is poor with an average survival time of 4.9 weeks, in contrast to 29.5 weeks in cats with a squamous cell carcinoma.引用文献:Primary and metastatic carcinomas in the digits of cats.

 

『本症例、術後から3ヶ月が経ちました』

本症例は2019年4月25日に断指手術を受けました。本記事執筆時が2019年7月なので約3ヶ月(約90日)が経過したことになります。
3ヶ月が経過して本症例の様子がこちらになります。 

【動画1】遊んでいるテテちゃん

断指手術を受けたとはいえ、ここまで回復してしまうのが動物の凄さです。指原発の扁平上皮癌なので、現在は抗がん剤治療などはせず、定期的にリンパ節転移や肺転移ががないかを経過観察中とのことです。

 

【指に腫瘍を見つけた際に注意すること】

『原発はどこか』

指に腫瘍を見つけた際に注意したいのは"原発巣はどこか"ということです。というのも指に発生する腫瘍は肺からの転移であることが多いからです。

"原発巣"と"転移巣"って?
原発巣とは「腫瘍がどこから発生したか」ということです。そして、転移巣とは「腫瘍がどこ転移したか」ということです。
例えば、
肝臓で発生した腫瘍で肺に転移が認められた場合、原発巣は肝臓で、転移巣は肺になります。

論文を参考にしてみる
指に腫瘍の発生が認められた猫64匹を用いた研究では、指が原発巣であった症例はたったの8匹(12.5%)で、残りの56匹(87.5%)の猫は原発巣を肺とする指への転移巣でした。
ここから言えることは指に腫瘍が見られた場合、原発巣は肺の可能性が高く、肺で腫瘍が見られないかを十分にチェックする必要があるということです。

A eight cats had a primary squamous cell carcinoma which involved one digit or two adjacent digits of one leg. Fifty-six cats had metastases of a pulmonary carcinoma in the digits, and in general multiple digits of different legs were involved. In many of these cats metastases also occurred in other organs, including the skin and muscles.引用文献:Primary and metastatic carcinomas in the digits of cats.

 

『扁平上皮癌と肺腺癌の見分け方』

あまり需要ないかもしれませんが、この2つの臨床的・病理学的な見分け方もついでにご紹介しておきます笑

まずは見分ける意義について
なぜこの2つを見分ける必要があるかというと、病理検査の結果で
・扁平上皮癌の場合→指原発の腫瘍
・肺腺癌の場合→肺原発の転移巣
とざっくりですが予測することができます。肺腺癌であると診断された場合、肺にある腫瘍を集中的に検索すれば良いです。

臨床学的に見分ける方法
先ほどご紹介した引用文献にも記載されていますが、扁平上皮癌と肺腺癌では腫瘍が発生した場所に違いが見られます。
指原発の扁平上皮癌の場合、腫瘍の発生が認められるのは『1つの手足』、『1,2箇所の指』です。
一方で
肺原発の肺腺癌の場合、腫瘍細胞は血流に乗って運ばれてくるので、『複数の手足』『複数箇所の指』さらに『指以外の臓器に転移巣』が見られます。全身転移しているということですね。

病理学的に見分ける方法
病理学的に見分ける方法は主に2つ。『形態学的分類』と『特殊染色による分類』です。
【形態学的分類】
肺腺癌の場合、腺細胞の特徴として『杯細胞(goblet cell)』『繊毛上皮細胞』の形態を兼ね備えています。一方で、扁平上皮癌の場合は『角化細胞』としての形態を備えています。

【特殊染色による分類】

実験的に行われるのは『PAS染色』です。うちの研究室で診断に使用したことはないので実際に使用しているのかは分かりませんが。

『肺に腫瘍はないですか?』

指に腫瘍が発見された時、肺に原発巣がないかを確認しておくことはマストです。調べる方法として、良いとされるのが『三方向レントゲン検査』です。
三方向レントゲン検査とは「腹→背」「左→右」「右→左」の三方向から撮影するレントゲン検査のことを言います。通常の二方向よりかは検出率が上がります。とはいってもレントゲンの検出力は1cm程度の大きさになるまで分かりません。

一番良いのはCT検査です。CT検査の検出力は高く2mm程度の腫瘤から発見することができます。
しかし、CT検査には全身麻酔が必要となるので、断指手術を行う際についでにCT検査も行っておけば、動物に余計な負担をかけなくて済むのでそれが良いでしょう。

【最後に】

今回は猫の指に発生した腫瘍について、どのようなことが考えられるか、どのような対応をすべきかを中心にお話しました、冒頭の引用文献のデータにもあるように指に発生する腫瘍は約95%の確率で悪性腫瘍です。
そして扁平上皮癌の増殖の特徴は『えぐるように増えていくこと』です。腫瘍というとボコッとしたしこりをイメージされるかと思いますが、今回のように『出血』『爪が剥がれる』など怪我のような病変でも注意が必要です。

【謝辞 -写真・動画提供者さんのご紹介-】

テテのお母さん
ててちゃんの飼い主さん

テテちゃん

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お写真のご提供、誠にありがとうございました。

【関連記事】

『指への転移が多い肺原発腫瘍について』

www.otahuku8.jp

『指にできる他の腫瘍~メラノーマ~』

www.otahuku8.jp

 

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