ペットの病気図鑑

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断脚を行なった犬、術後の様子

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文:オタ福

今回は『断脚を行なった犬、術後の様子』についてです。
本症例は後肢に悪性腫瘍ができ、断脚手術を行なった症例です。結論から言うと本症例は元気に生活しています。
脚に腫瘍ができ、ペットの断脚を提案されている飼い主さんが、この記事を読んでペットの断脚を行う決意をしてもらえれば良いなと思いながら、執筆しています。

 

【目次】

 

 

【本症例の情報】

【動物種】犬
【品種】mix犬
【年齢(発症当時)】7歳11ヶ月
【性別】避妊雌
【初期症状】内股に100円玉ほどの内出血を確認
【臨床経過】

2017年1月上旬 内股に100円玉ほどの内出血を発見
1/21 内出血の大きさが3倍ほどにその日のかかりつけ病院へ1週間抗生剤を処方される
1/27 再度来院し、腫瘍マーカーの検査を外注検査する
1/28 セカンドオピニオンとして別の病院へ、細胞診の結果『肉腫(悪性腫瘍)を疑う』と言う結果が出る
2/4 腫瘍マーカーの結果を聞きに前の病院へ、腫瘍マーカーは『陰性』
2/6 セカンドオピニオン先の院長より、大学病院への診察を提案される
2/10 大学病院へ、検査の結果『悪性腫瘍(線維肉腫を疑う)』と仮診断。断脚手術を行い、病理組織検査に出すよう提案される。
2/13 断脚手術、手術は無事成功。病理検査の結果を待つことに。
2/15 退院
3/9 大学病院で今後の治療方針を決める。抗がん剤治療を行うことで同意。カルボプラチンorドキソルビシンを3~4週間の間隔でワンクール6回投与

~抗がん剤治療を実施~
6回のカルボプラチン投与を予定していたが、3回目で急性腎不全を発症したため、抗がん剤治療は中止(3回まで投与)。

7/10 大学病院で術後5ヶ月の検診、再発無し、抗がん剤治療も終了
10/6 大学病院で術後8ヶ月の検診、CT検査を行うが異常無し
12/19 かかりつけ病院で術後10ヶ月目の検診、異常無し
2018/2/19 大学病院で術後1年の検診、異常無し
2018/12/6 大学病院で検診を行う、異常無し。
次回の検診は2019年8月を予定

【内股に見つけた内出血、なぜ起こる?】 

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【写真1】1/23時点の病変部

『腫瘍が持つ性質、『局所浸潤性』とは』

病変部の内股には内出血が見られます。これは腫瘍の浸潤力によるものだと考えられます。腫瘍には多かれ少なかれ、正常組織を破壊して増殖していく局所浸潤性』を持っています。悪性の腫瘍になるほど、この局所浸潤性が強くなり、正常組織を破壊しては自分(腫瘍)が増殖できるスペースを確保していきます。

『良性と悪性で発育形態はどう変わる?』

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【図1】腫瘍の発育形態、良性・悪性の違い

良性腫瘍の場合、正常組織と腫瘍組織の境界がはっきりとしており、正常組織を押し上げるように増殖していきます。そのため、腫瘍周辺部では、正常組織が圧迫されています。

一方で、
悪性腫瘍の場合、正常組織を破壊して、増殖スペースを確保していくので正常組織と腫瘍組織の境界が不明瞭です。そして、正常組織が破壊されていくので、本症例のように内出血や痛みが出てくることも多々あります。
そして、悪性腫瘍の特徴的な増殖形態として『飛び地増殖』、『娘結節』とも呼ばれるものが見られます。これは外科切除を行う際に取り残しを引き起こす主な原因となっています。

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【図2】悪性腫瘍は正常組織を破壊・浸潤する

【だんだん腫れが酷くなる】

『病変部が腫れてきた』

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【写真2】1/26時点の病変部

【写真1】から3日経った時の写真です。写真2では内出血は引いたものの、腫れが目立ちます。
この時点で内出血と腫れ上がるスピードの速さから、腫瘍の可能性が濃厚になってきます。
細胞診(コブに針を刺し、顕微鏡で細胞を見る検査)を行う必要があります。しかし、この段階で最初のかかりつけの先生は腫瘍マーカーの検査を行なっています。
腫瘍マーカーはあくまで目安です。確定診断にもなりませんし、検査結果が出るまで時間がかかる。
腫瘍の可能性を感じたら、腫瘍マーカーの外注検査より細胞診を先に行うべきでしょう。ここで行われた腫瘍マーカーについては後ほど説明します。

『1/23~2/5までの病変部の経過』

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【写真3】1/23~2/5までの変化

ご覧の通り、どんどん大きくなっています。わずか2週間でここまで急激に大きくなるというのはかなりタチの悪い悪性腫瘍です。
しかも、おそらくかなり痛いと思います。
イメージとしては筋肉や骨をゴリゴリと削られている感じです。腫瘍が正常組織を破壊していきます。それと同時に足には腫瘍が増殖するので、重たく浮腫み、辛い状況にいたのではないでしょうか?

次は検査結果について考察の述べていきたいと思います。

【検査結果から見えること】 

『腫瘍マーカーの検査は一体何だったのか』

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【写真4】腫瘍マーカーの検査結果

セカンドオピニオンを受ける前、最初の病院で行われた腫瘍マーカーという検査。これは一体どういうものなのでしょうか?

腫瘍マーカー検査とは
腫瘍マーカーとは腫瘍細胞が産生する物質や腫瘍に反応して正常細胞が産生する物質のことを言い、血液中でそれらの存在を確認することで間接的に腫瘍の存在を認識する検査です。
こういった検査なだけに腫瘍マーカー検査は特異度は高いですが、感度は低いです。
※特異度:検査結果が陽性の時に、実際に腫瘍がある確率
※感度:検査結果が陰性の時に、実際に腫瘍が無い確率

腫瘍マーカーの使い方
また、腫瘍マーカーは発生している腫瘍によって産生する物質が異なるため、発生している腫瘍が産生する腫瘍マーカーを測定する必要があります。
以上のことから、腫瘍マーカーとは病理検査などで腫瘍の正体を明らかにした後、術後に再発が無いかのモニタリングなどに使われます。いきなり腫瘍マーカーのみといった検査方法は通常行いません。

本症例では
本症例でも腫瘍マーカーの検査を行っています。測定しているものは『AFP(α-フェトプロテイン)』という腫瘍マーカーです。これは肝細胞癌の腫瘍細胞でよく産生されている物質です。

先ほども言いましたが、腫瘍マーカーは腫瘍によって産生する物質が異なるため、腫瘍ごとに測定するものを選択しなければいけません。今回の場合、細胞診や病理検査を一切せずいきなりAFPの測定をしています。
実際にAFPのマーカーは上昇しておらず、陰性という診断結果になっています。

本症例ほど急速に大きくなる悪性腫瘍であっても腫瘍マーカーが異なれば、検査結果は陰性になるということです。
やはり、腫瘍の細胞を顕微鏡で見る細胞診や病理検査が腫瘍の診断には重要になってきます。

では、腫瘍マーカーでは陰性であった一方で、細胞診や病理検査ではどのような結果になったのでしょうか?
 

『術前の検査、細胞診の結果について』

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【写真5】細胞診の検査結果

セカンドオピニオンで診察を受けた病院では、細胞診を行っています。
細胞診とは
細胞診とは病変部を注射針で刺して、細胞を採取し、顕微鏡でどのような細胞がいるかを調べる検査です。腫瘍を疑う病変では「腫瘍性病変か炎症性病変か」や「どのような細胞が増えているか」など「腫瘍か炎症か」さらに「何由来の腫瘍細胞か」を見極めるために用いられます。

細胞診のメリット
細胞診は検査を行う上で侵襲度(動物への負担)が少なく、結果を院内で仮診断できるため、院内検査としては重宝する検査法です。

細胞診のデメリット
病理検査と比べ、診断精度は低く腫瘍の種類を同定することは困難で、確定診断を行うことはできません。あくまで「腫瘍の可能性がある」といった表現に留まります。

本症例の結果は
細胞は不揃いで大小様々細胞が見られ、さらに2~3核の異形な細胞も見られています。
通常、1細胞に対し核は1個なので今回は異常な細胞です。腫瘍細胞が未分化なものほど大きさにバラツキが出たり、核分裂像が見られたりします。そして未分化なものほど増殖力が強く、悪性とされています。
本症例は細胞診の結果を見る限りではかなり悪性度が高い細胞だと仮診断できます。

『術後の検査、病理検査の結果について』

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【写真6】病理検査の結果

病理検査は細胞診のように細胞を見るのではなく、腫瘍を"かたまり"で観察しています。そのため、腫瘍がどのように増殖しているかや、腫瘍領域と正常領域の境界線なども観察でき、診断精度はかなり高い検査方法です。
しかし、かたまりを見ているのでその分採取するべき量は必然的に増え、侵襲性は高い検査になります。
治療も兼ねて、術後に行われるのが一般的な使用法です。

本症例の結果
【写真6】で診断書の中から一部抜粋していますが、言っていることは『由来不明の悪性腫瘍です』ということです。前述しましたが、腫瘍は未分化なものほど悪性度が高いです。由来不明という表現は未分化すぎるとも捉えることができます。
本症例はやはり、極悪腫瘍でした。

 

【断脚という治療法について】

本症例のように四肢にこのような悪性腫瘍が発生した場合、『断脚』つまり脚を切除する治療法を提案されます。この断脚という治療法の提案は多くの飼い主さんを悩ませます。

「果たしてこの子にとって最善の治療なのか?」

断脚という治療について考えていきたいと思います。 

『患肢温存 ~断脚を行わなければ~』

断脚をしなければどうなるか
悪性肉腫と診断され、断脚しなかった場合、どんどん腫瘍は大きくなります。病理検査の結果からも分かるように腫瘍細胞はどんどん分裂を繰り返しており、大きくなっていきます。
腫れは酷くなり、やがて血液の流れが悪くなり、かなり浮腫んできます。浮腫むと脚は重くなります。
そして十分な血液量を維持することができなくなり腫瘍細胞は壊死します。
腫瘍による浸潤と壊死で痛みが強くなります。
さらに脚としての機能を失った重くて痛む脚をぶら下げて、生活していくことになります。

脚を残すのは動物とってはQOLを大きく下げてします原因となります。

『本症例について(閲覧注意:術創の写真が出ます)』

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【写真7】本症例、術後の写真

本症例は断脚手術を実施しました。その際の術後の傷跡です。悪性腫瘍が四肢にできた場合、患部だけを切除するよりも根本(関節)から切除した方が良いです。
根本から切除するべき理由としては
・切除しやすい→手術時間の短縮に繋がる
・マージンを確保しやすい→腫瘍の完全切除に繋がる
・術後の術創の管理がしやすい
などがあります。

切除しやすい
股関節から切除することで骨(大腿骨)自体を切断することがなく、感染症や出血のリスクが減少します。結果的に、手術時間の短縮にも繋がり、動物への負担も軽減できます。

マージンを確保しやすい
マージンとは腫瘍組織と正常組織の境界のことでここしっかりと確保しないと、腫瘍細胞の残存と再発のリスクが上がります。正常組織ごと大きく切除することは悪性腫瘍の治療においてとても大切です。

術後の術創の管理がしやすい
下手に脚を残してしまうと、犬が動く時に傷口が床にぶつかります。
これ絶対痛いのわかりますよね?
痛いだけならまだマシですが(←マシではない) 、傷口が床にぶつかるとそこから細菌が入り、感染症へと発展しうるのです。そのため、後ろ足なら股関節から、前足なら肩甲骨ごと切除してしまう必要があるのです。

【断脚後の犬の様子について】

断脚手術と聞くと人間であれば、二本足なので、義足や車椅子などが必要になりますが、 4本脚の犬だとどうでしょうか?
我々人間が考えているほど、動物は弱くありません。犬や猫たちは断脚手術によって3本脚になったとしても、残された脚を上手に駆使し駆け回ることができます。

その証拠に本症例の飼い主さんのご厚意より頂いた動画を見てください。
断脚手術を受けたティナちゃんが元気に走り回る姿を見ることができます。 

【動画1】断脚手術後、1ヶ月後の様子

こちらが術後1ヶ月経った、本症例であるティナちゃんの散歩の様子です。手術からたった1ヶ月でここまで自由に歩けています。
車椅子になったり、寝たきりになることはあまりありません。3本脚になった動物は残された脚で上手に歩くことができます。

 

【動画2】断脚手術後、1年半後の様子

さらに術後1年半後の散歩の様子です。もう走ってます笑
脚を残して痛みに耐えながら生活するよりも、はるかに快適で自由な生活ができると確信しています。

【これからペットの断脚手術を考える飼い主さんへ】

以下の引用部は本症例の飼い主(ティナの母)さんより頂いたメッセージです。
『断脚』という苦渋の決断を強いられた際、飼い主さんは何を感じ、どう向き合ったのでしょうか?
飼い主さんの実体験を記しています。是非とも一読して頂ければと思います。

『断脚を決意した時のきっかけ』

実は家族間で考えは分かれていましたし、私自身は大学病院の診察室に入るまで「断脚」という選択肢はありませんでした、大学病院初診時に「断脚の痛みは薬でコントロールできますが、腫瘍の痛みは薬でコントロールできなくなります。」
という説明が断脚を決断した大きな要因です。

そしてセカンドオピニオンを聞いた病院(現在のかかりつけ)の院長の、「野生に返すわけではないから大丈夫、ペットとしてなら3本足でもじゅうぶん生きていけるよ」という言葉が、背中を押してくれました。

大学病院の先生が仰られている通り、腫瘍によって発生する壊死や侵食から生じる痛みは相当なものです。 だんだんと強くなる痛みと徐々に回復してくる痛み、同じ痛みを感じるのであれば、やがて収まる痛みの方がはるかに良いのではないでしょうか?

『断脚を行なって感じたこと』

退院してしばらくは震えていたり、小さな声でキューンと鳴いたり、普段と違う様子も見受けられましたが、日に日に回復し、動物の適応能力は私たち飼い主の想像をはるかに超えました。

動物の適応力には我々の想像を超えるものもがあります。 動画でも紹介した通り、脚を一本失った犬でも、腫瘍に侵された脚と引き換えに快適さと自由を手に入れました。

『これから断脚手術を考えている方へのメッセージ』

病気そのものは1匹ずつ違うし、年齢等による個体差もあると思いますが、断脚によって助かる命があります。断脚をすすめられた時は、今でも忘れることはできないくらいショックでしたが、動物は人間が思っている以上に適応能力があります。
断脚により痛みから解放されたことで、また元気な姿を見せてくれます。

ペットの断脚を提案された飼い主さんにはぜひ読んでもらいたいメッセージです。「断脚」はショッキングなワードではありますが、その先にある生活を考えた際、決して悲観的になるものではないのではないでしょうか?

【最後に】

今回、この図鑑を作成する際、僕が図鑑の作成を依頼したいなと思っていた矢先にティナの母さんから「ティナを図鑑に使って下さい」とご連絡を頂きました。飼い主さんから、「うちの子をどうぞ」と仰られる方は少ないので、とても感銘を受けました。

断脚という選択を迫られて、困惑している飼い主さんは多いと思います。今回のように、悩みを抱えた飼い主さんと断脚手術を行うことを承諾した飼い主さんがこの図鑑を機に交わり、一人でも多くの飼い主さんの心が救われれば嬉しいです。

【謝辞 -動画提供者さんのご紹介-】

ティナの母さん
ティナちゃんの飼い主さん
Twitter:

ティナの母さんが運営するブログ

ameblo.jp

 

ティナちゃん

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お写真のご提供、誠にありがとうございました。

【関連記事~断脚適応の疾患~】

www.otahuku8.jp

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