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腎性貧血~慢性腎臓病から生じる貧血について~

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文:オタ福

今回は『腎性貧血』の症例です。
腎性貧血とは慢性腎臓病の子で見られる貧血で、腎臓の機能が低下する事で赤血球を作れなくなってしまう病気です。

【目次】

 

【本症例の情報】

『基本情報』

【動物種】犬
【品種】ミニチュア・ダックスフンド
【年齢(発症当時)】14歳0ヶ月~(11ヶ月の闘病)
【性別】雌

【症状】舌色が白くなった
【現疾患】慢性腎臓病
【既往歴】
2012年(7歳) 白内障
2014年6月(9歳11ヶ月) 乳腺腫瘍、子宮蓄膿症の手術 甲状腺機能低下症
2016年2月、6月(11歳) 眼振発作
2018年7月(14歳) 慢性腎不全
2019年1月(14歳) 転院 慢性膵炎、緑内障、胆泥症
2019年6月7日 早朝、息を引き取りました。
14歳11ヶ月で天国へ、ジュディちゃんよく頑張りました!

 

【腎性貧血とは】 

腎性貧血とは腎臓の機能が低下するにつれて起こる貧血です。慢性腎臓病を患っている犬や猫で頻繁に見られる貧血です。
貧血は慢性腎臓病が進行するに連れて、重篤化していきます。

腎性貧血の"貧血の種類"
貧血には赤血球の大きさや濃さによって、様々な種類があり、分類されます。腎性貧血の場合、正球性正色素性貧血に分類される非再生貧血です。
詳しい貧血の分類は以下の通りです。

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【図1】貧血の形態学的分類および原因

 

『腎臓が悪いと貧血になる理由』

腎臓が悪くなるとなぜ、貧血が起こるのでしょうか?
これには"エリスロポエチン"という糖蛋白ホルモンが関与しています。

エリスロポエチンとは
エリスロポエチンとは体の低酸素状態に反応して、腎臓で産生される糖蛋白ホルモンです。役割としては赤血球の前駆細胞の受容体に結合し、正染性赤芽球や成熟赤血球へと分化を促進します。

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【図2】エリスロポエチンの役割

 

エリスロポエチンの産生部位
腎臓におけるエリスロポエチンの正確な産生部位は判明していませんが、尿細管周囲の毛細血管内皮細胞である可能性が高いと言われています。

 

腎臓が悪くなると…
腎臓が悪くなるとエリスロポエチンの産生量が低下します。エリスロポエチンの産生量が低下するので、成熟赤血球の産生量が減ってしまいます。これにより貧血が起こると考えられています。

貧血の原因はエリスロポエチンだけじゃない
ただ、興味深いことに血漿中のエリスロポエチン量の減少程度と貧血の重症度で相関関係が薄いとも言われています。
腎性貧血に陥っている時はエリスロポエチンの産生量だけではなく、鉄分がB12などの赤血球産生に必要な栄養素が足りていなかったりします。
『腎性貧血=エリスロポエチン産生量の低下』とは言えないようですね。

【腎性貧血で見られる症状】

教科書的な話では以下の通りです。 

貧血が出ると現れる症状
・可視粘膜の蒼白
・疲労感
・気力低下
・虚脱
など人の貧血時と同様の症状が見られます。

『本症例では』 

貧血の様子

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【写真1】頬裏粘膜の色調が蒼白な様子

これは貧血時全般に言えることですが、歯肉や頬裏、結膜などが白っぽくなります。

 

気力低下の様子

【動画1】元気がなく気力が低下しています

本症例の動画です。元気がなく、呼吸もやや荒くなっています。貧血が進行すると、元気がなくなり、このように倒れ込んでしまいます。
貧血とは身体を循環する赤血球の数が減ってしまう病気です。赤血球は酸素を運ぶ細胞なので、赤血球が減ってしまうとやや酸欠気味になり、呼吸も荒くなってしまいます。
また、この子は複数の病気を持っているので、気力低下の原因はそれだけではないですが。

 

【腎性貧血の検査と結果】

『教科書的な話』

腎性貧血に限って言えば、血液塗抹や骨髄穿刺によって診断ができます。腎不全による腎性貧血ということで、腎不全の血液検査所見についても簡単にお話しします。

血液塗抹
血液塗抹とは採血を行い、スライドガラスに血液を伸ばし、血液中の細胞などを顕微鏡で観察する検査方法です。
腎性貧血の場合、血液塗抹検査上では有棘赤血球などの変形した赤血球が認められます。

骨髄穿刺
慢性腎臓病の子に全身麻酔をかけて骨髄穿刺を行うような危険なことは実際行われません。これはあくまで教科書的なお話です。
骨髄穿刺を行い、骨髄内の細胞を見てみると、白血球系・巨核球系には影響しない、赤血球前駆細胞のみの低形成が見られます。

腎不全の一般的な血液検査結果
腎数値であるBUNとCreが上昇します。特にCreが軽度に上昇してきた場合、腎臓病の初期段階の可能性もあるので、早めに治療を開始した方が良いとされています。
そのほかにはCaの低下とPの上昇があります。腎臓ではCaを再吸収し、Pを尿中に排出しているのですが、その機能が低下してCaが体外へ排出され、Pが蓄積してしまうのです。
Kは尿が出ている時は低下します。無尿期・乏尿期と呼ばれる尿量が低下した時には高K血症になります。
まとめると
・BUN、Creの上昇
・Caの低下、Pの上昇
・Kは乏尿期に上昇

 

『本症例の血液検査結果(CBC)』

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【写真2】血液検査(CBC)の検査結果

まずは項目の説明
RBC:血液中の赤血球数のことを示しています。
HCT:血液中の赤血球が占める体積の割合を示しています。
HGB:ヘモグロビン濃度を指し、主に酸素運搬能を示しています。
MCV:平均赤血球容積といい、赤血球1個の平均体積を示しています。
MCHC:平均赤血球血色素濃度を指し、赤血球1個あたりのヘモグロビンの百分率を示しています。
WBC:血液中の白血球数のことを示しています。
NEU:血液中の好中球数を示しています。

 

『この検査結果から考えられること』

RBC、HCTから分かること
RBC、HCTが減少していることから、血液中の赤血球数が絶対的・相対的に減少していることがわかります。

貧血が起こっています

貧血の種類を調べる
そして、次に貧血の種類を見ていきます。MCVとMCHCを見れば、貧血の種類がわかります。
MCVが大きくなる時は赤血球が積極的に作られている時です。今回は正常値なので、正球性であることがわかります。

次にMCHCを見ます。MCHCが低値を示す場合、ヘモグロビン濃度が未だ少なく、RNAを持っていることが示唆されます。つまり、まだヘモグロビンを作りきれていない赤血球=未熟な赤血球が出てきているということ。
この数字を解釈すると再生像がある」または「鉄がないのでヘモグロビンが作れない」ということです。
今回の場合、MCHCはやや低値ですが、ほぼ正常値範囲です。なので、『正球性正色素性貧血』であるということがわかります。

腎性貧血では
腎性貧血では赤血球を作ることができなくなってしまっているので、非再生性の貧血で正球性正色素性貧血になります。
本症例では同様の病変が見られていると思います。

『本症例の血液検査結果(生化学)』

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【写真3】血液検査(生化学)の結果

慢性腎臓病を疑うような検査結果です。CreやBUNが上昇するのは腎疾患で最も特徴的な検査所見です。
そして、Na-k-Clという電解質(ミネラル)の量も腎臓で調整されているので、これらの異常が見られるのも特徴です。

 

【最後に】

貧血と単に行っても、たくさんの原因と貧血の種類があり、それらをきちんと分類することがとても大切になります。
今回は慢性腎臓病から生じる貧血として、腎性貧血の症例をご紹介しました。腎性貧血は血液中に存在する赤血球という血球を作ることができなくなってしまい起こる非再生性の貧血です。
慢性腎臓病の動物を飼われている方の参考になればと思います。

 

【謝辞 -写真提供者さんのご紹介-】

Aliceさん
ジュディちゃんの飼い主さん
Twitter:

Aliceさんが運営するブログ

ameblo.jp

ジュディちゃん

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写真のご提供、誠にありがとうございました。

『ジュディちゃんの他の図鑑』

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【関連記事】

『慢性腎臓病について知りたい方』

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『腎臓の機能について知りたい方』

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