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【脱毛】【考察】原因不明の脱毛について考察してみた

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文:オタ福

本症例は原因不明の脱毛を示したチワワです。
発疹や肌荒れ、フケ、何にも出てないのになぜハゲるのか?
今回はそんな『原因不明の脱毛』について実際の症例を元に考察してみようかなと思います。
ちょっと図鑑とはニュアンスずれるけど笑

【目次】 

 

【本症例の情報】

『基本情報』

動物種:犬
品種:チワワ
年齢(発症当時):2歳
性別:去勢雄

症状:胸から腹にかけての突然の脱毛
現疾患:なし

 

『臨床経過』

夏頃から急に首から胸辺りにかけて、白い毛だけが抜けるようになった。
痒がったり、発疹や肌荒れはなく、突然抜け毛が始まった。
病院へ連れて行ったところ、念の為アレルギー検査をしたが、原因は不明であった。
10日後には産毛が生えてきた。
セカンドオピニオンを得るために他の病院へ来院したところ。『パターン脱毛』ではないかと言われた。

今回のキーワード
・去勢済みの2歳
・白い毛が突然抜け始める
・皮膚の炎症は起きていない
・パターン脱毛ではないか?

【炎症性?非炎症性?】

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【表1】炎症性脱毛と非炎症性脱毛

まず『脱毛』で考えるべきことは"炎症性脱毛""非炎症性脱毛"かということです。【表1】では炎症性脱毛、非炎症性脱毛で考えられる疾患を列挙しています。

炎症性脱毛の場合
ご覧の通り炎症性脱毛の場合、細菌や寄生虫、真菌による感染症やアレルギー、自己免疫疾患など炎症が起こることで痒みが生まれ、脱毛が起きている疾患が多いです。
チェックポイントとして
・赤くなっていないか
・皮膚は荒れていないか
・痒がっていないか
などを調べてみましょう。

非炎症性脱毛の場合
非炎症性脱毛ではホルモンの異常などによる内分泌疾患をはじめ、特発性や遺伝性などがメインで挙げられます。

『本症例はどっち?』

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【写真1】脱毛が目立ち始めた時期

飼い主さんからの訴えでは「痒がる様子もなく、発疹もない。突然抜け毛が始まった」とのことです。実際見てみても、赤くなっている様子はなく、掻いた痕跡もありません。

飼い主さんの主張と犬の身体状況をみて、このあと本当に炎症性疾患が起こっていないかをチェックしていきます。
検査方法(どの検査を行うのかはその症例の状況次第)
・ウッド灯検査
・櫛(くし)検査
・セロテープ検査
・毛検査
・細胞診
・皮膚掻爬物鏡検
・耳鏡検査
・耳垢検査
・微生物培養同定検査
・アレルギー検査
・皮膚生検
・治療的試験
今回はどれも行なっていないようですが、見た目的には感染症を起こしている様子もないので、おそらく非炎症性脱毛であろうと思います。

 

 

【内分泌関連性脱毛の可能性は?】

 脱毛を伴うとされる内分泌疾患についてのお話です。脱毛がみられるときに考えられる主要な内分泌疾患は以下の3つです。

代表的な脱毛を伴う内分泌疾患
・副腎皮質機能亢進症
・甲状腺機能低下症
・高エストロゲン血症
が挙げられます。一個ずつ簡単に解説していきます。

『副腎皮質機能亢進症』

副腎皮質機能亢進症とは
副腎皮質機能亢進症は副腎皮質からステロイド(特にグルココルチコイド)が過剰に分泌されることで起こります。
そのほかにも医原性副腎皮質機能亢進症と呼ばれる病気があり、この医原性ではステロイド薬の長期服用で発生すると言われています。

好発年齢
・通常の副腎皮質機能亢進症:中〜高年齢
・医原性副腎皮質機能亢進症:どの年齢でもありえる

好発品種
・ボクサー
・ボストン・テリア
・ダックスフンド
・トイ・プードル
・スコッチ・テリア

どんな脱毛を示すか
被毛はカサカサと乾燥し、ツヤがなくなります。そして両側性(左右対称)に脱毛するのが特徴です。残っている毛も簡単に抜けていきます。
毛が抜けた皮膚は薄く、ハリがなく、ところによっては色素沈着が起きています。

妊娠線のように皮膚線条が現れるのも特徴の一つです。

副腎皮質機能亢進症の詳しい説明はこちら

www.otahuku8.jp

 

『甲状腺機能低下症』

甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症とはリンパ球性甲状腺炎や特発性の甲状腺萎縮によって、甲状腺の機能が低下してしまう内分泌疾患です。犬でよく見られます。

好発年齢
・中〜高年齢

好発犬種
・超大型犬に多い

どんな症状が出るのか
甲状腺機能低下症で見られる皮膚病変は様々です。発症早期には鼻周りの抜け毛が目立ちます。被毛は粗く、乾燥しています。
両側性の脱毛を示し、残っている毛も簡単に抜けていきます。そして、毛が抜け露出した皮膚は肥厚し、色素沈着が見られ、冷たくなります。
ムチン沈着によって分厚く垂れた皮膚では慢性の乾性脂漏症(フケがたくさん出る)や外耳炎などが見られることがあります。

『高エストロゲン血症』

この病気はオスとメスで発生する原因が異なります。

「オスの場合」

高エストロゲン血症は精巣で性ホルモンや性ホルモンの前駆物質が過剰に産生されることで発症します。ほとんどの場合が精巣腫瘍(特にセルトリ細胞腫)です。
腫瘍性病変であるからか、好発年齢は中〜高年齢となってます。

脱毛の特徴
性ホルモンによる脱毛は両側性脱毛を示し、所としては首、お尻、会陰部、体の側面、胴体で抜け毛が目立ちます。逆に頭と肋骨部分の毛が残っているのも特徴の一つです。
残っている毛はボロボロと簡単に抜け落ち、毛が抜けた皮膚では色素沈着が見られます。
精巣腫瘍の詳しい話は『オタ福の語り部屋』を参考にして下さい。

www.otahuku8.jp

「メスの場合」

エストロゲンやプロジェスティンの上昇によって起こります。
メスで高エストロゲン血症になるのは稀ですが、 卵巣嚢胞や卵巣腫瘍を持つ中〜高齢のメスでしばしば確認されています。不妊治療を行なったメスであっても尿失禁治療としてエストロゲン投与を行なっている場合、発生が報告されています。

脱毛の特徴
「オスの場合」と同様の脱毛を示します。

『本症例の場合を考える』

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【写真2】首から胸にかけて毛が薄い

 先ほどご紹介した内分泌疾患と本症例を比較してみます。

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【表2】本症例と内分泌疾患との比較

本症例は2歳齢の去勢雄であり、脱毛部位は首から胸にかけて、脱毛以外の症状は特にないです。これらを【表2】の内分泌疾患と比較してみても、一致している病気があるとは考えにくいのではないでしょうか?

【本症例で考えられる脱毛症】

これまでの考察から非炎症性脱毛であり、内分泌疾患でもないとすると仮定します。そして臨床経過から推察するに二つの疾患の可能性があります。それはパターン脱毛と円形脱毛症です。これらの疾患について簡単にご説明します。

『パターン脱毛』

どんな病気?
パターン脱毛とはダックスフンドで最もよく見られる特発性の脱毛性疾患です。

好発犬種
・ダックスフンド
・チワワ
・ホイッペット
・マンチェスター・テリア
・ボストン・テリア
・グレイハウンド
などで報告が確認されています。
本症例のチワワもバッチリ入ってます!!

好発年齢
思春期から青年期にかけて起こります。この時期はだいたい生後8ヶ月〜2歳齢と言われています。本症例は2歳齢なので、これまたバッチリです!

脱毛の特徴
歳を重ねるごとに徐々に毛が細くなっていきます。脱毛自体は両側性に抜けますが、他の残っている被毛は抜けることなくしっかりと保持されます。慢性化すると色素沈着も見られます。

主な脱毛部位
・耳介
・耳の後ろ
・太もものお尻側
・腹面(下側)の首、胸、腹
などです本症例では首から胸にかけての脱毛なのでバッチリ入ってます!

治療法
犬自身が気にする様子はなく、QOLを下げるようなこともないので、特に治療は必要ありません。
敢えて行うとするならば、『メラトニンの投与』が毛の再生を助けてくれるかもしれません。あまり根拠のある治療法ではないのですが、もし効果があるなら治療を開始して3ヶ月以内に毛が生えてきます。

予後
予後は良いです。見た目的に抜け毛が目立つかもしれませんが、それ自体は犬に悪さをすることが無いので、放っていても害はありません。

『円形脱毛症』

どんな病気?
円形脱毛症は毛包壁への免疫介在性の反応によって起こる疾患です。脱毛自体は毛包壁に対して起こる細胞性あるいは液性免疫反応の結果として生じます。
犬や猫で起こることは稀ですが、成熟した(大人になった)動物で起こりことが多いです。

脱毛の特徴
痒みはなく、単発性あるいは多発性に発生し、ハゲている部分とハゲていない部分でしっかりと区分けされていきます。
毛色が複数ある犬種では最初は色素が濃い色の毛から抜けていくことも特徴の一つです。しばしば白毛症も見られることがあります。

主な脱毛部位
・頭部:鼻、目の周り、耳、あご、額
・頸部
・脚
本症例と同様に頸部での脱毛が見られます。

病理検査を行うと…
早期ステージでは毛球付近にリンパ球や組織球、形質細胞などの炎症細胞が浸潤していきており、成長期の毛包壁を叩きまくっています。
長期化すると、休止期や萎縮した毛包のみが観察されます。慢性期では毛包壁は無くなり、線維組織に置換されています。

治療法
数ヶ月〜数年の話になってきますが、特に治療せずとも勝手に治ってしまうケースも多々あります。積極的に治療を行なっていくのであれば、外用薬のステロイドやタクロリムスなどを塗ったり、ステロイドの内服があります。要は「ステロイドで免疫を抑えよう!」ということです。

『本症例に近いのはどっちだ』

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【表3】本症例との類似点と相違点

表3では本症例と一致する項目がどれほどあるかを比べています。この表の通り、筆者は本症例をパターン脱毛ではないかと考えています。

 

【現在の様子】

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【写真3】現在の様子

毛の量は完全に元に戻り、初めから何もなかったかのような六花ちゃんのこの表情(ドヤ顔)

犬本人は脱毛部位を全く気にしている素振りもなく、痒みや痛みを起こっていないようなのでやはりパターン脱毛だったのではないでしょうか?

 

【最後に】

今回は原因不明の脱毛について考察してみました。本症例は獣医師のもと確定診断を行わないうちに状態が回復し、毛が生えてきたので、正確な病名はわかりません。ただ、臨床経過や症状、脱毛の特徴から『パターン脱毛』ではないか考えられます。

今回のまとめ
・脱毛には炎症性と非炎症性がある
・内分泌疾患が隠れていないかチェック
・年齢、脱毛部位、脱毛している毛色から推測
この流れである程度、推測できるのではないでしょうか?
とはいえ、実際に脱毛で問題になるのは炎症性脱毛の方が多いですが…笑

 

【謝辞 -写真提供者さんのご紹介-】

Rikkaさん
六花ちゃん(チワワ)の飼い主さん

六花ちゃん

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『Rikkaさんのブログ』

riro-chihuahua.hatenadiary.jp

 

今回、写真を提供されたRikkaさんとチワワの六花ちゃんには感謝申し上げます。

 

【本記事の参考書籍】

Keith A. Hnilica ; Adam P. Patterson : Small Animal Dermatology A Color Atlas and Therapeutic Guide. 4th ed., ELSEVIER, 2016, 302-352p

 

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