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【非再生性の貧血】【考察】猫の非再生性貧血を考察してみた

f:id:otahukutan:20190512224735j:plain 文:オタ福

本症例は『非再生性の貧血がある』と診断された猫です。貧血を示す原因はたくさんあります。原因を調べるには十分な検査が必要になります。

中でも身体検査は一番大切です。
「歯肉の色は白くないですか?」
「呼吸は荒くないですか?」
ペットが急に元気が無くなった場合、貧血の可能性を頭に入れておくと早期発見につながるかもしれません。 

本症例は診断がつく前に亡くなってしまったので、確定診断が付いていません。必要な検査を十分に行えていないので、今回は『考察』を行いました。

【目次】

 

【本症例の情報】

『基本情報』

動物種:猫
品種:mix
年齢:2歳

症状:急に元気がなくなる。発熱(39.8℃)がみられる。
現疾患:縦隔型リンパ腫

『臨床経過』

5/6
グッタリしていたので病院へ。結膜が赤く腫れていたので、感染症を疑い抗生物質を処方される。体重は4.92kg。

5/8
発熱は続いている。さらに元気が無くなった様子。ちゅーるを食べた1時間後、嘔吐があった。

5/9
食欲はなく、ちゅーるのみ食べる。便、おしっこ共に正常に排泄。抗生物質は効いている様子は無く、一向に熱は下がらない。

5/10
再度、病院へ。血液検査を外注し、検査結果を待つことに。それまでは前回とは別の抗生物質を処方される。体重は4.68kg(前回比:-240g)と減少している。体温は40.3℃と以前(39.8℃)より上昇している。

5/14
治療の甲斐も叶わず、貧血が進行し、亡くなってしまいました。

【貧血時の様子】

貧血を起こしている動物の症状
・元気消失
・食欲不振
・心雑音(貧血性心雑音)
・呼吸促迫
・可視粘膜の蒼白
などがあります。
本症例ではどんな症状を示しているか見ていきましょう。 

症状の写真①

【写真1】口腔内の可視粘膜は蒼白

貧血しているかを調べるのに一番見やすいのは『歯肉の色』です。貧血になると、歯肉は血の気が引き、白く見えます。

『オタ福の相談部屋』ではお家でできる身体検査についてまとめて書いてある記事があります。そちらをご参考ください。

sodan.otahuku8.jp

症状の写真②

【写真2】貧血による倦怠感

皆さんも一度くらいは貧血になったことありますよね?
僕も貧血とは若干ズレるかもしれませんが、富士山に登った時に高山病になってすごいしんどかったです。全身の倦怠感がひどく、歩を進めるのがこんなにしんどいのかってなりました笑

貧血になると血の気が引いて、ものすごいしんどいですよね?
猫でも同様に倦怠感を示します。明らかに元気が無くなります。ですが進行がゆっくりな貧血の場合、体が順応してそこまで倦怠感を示さない猫もいます(高地トレーニングと同じ要領)。
そのため、倦怠感はあまり貧血の指標にならないのも事実です。 

【発熱が起こる原因】

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【写真3】直腸体温で40℃を超える。

犬や猫の正常体温(直腸体温)は38.0~39.2℃です。本症例の猫ちゃんは40.0℃と発熱があります。

発熱の原因
発熱の原因はおそらくですが、免疫介在性貧血の場合、自分の免疫細胞が自分の細胞を攻撃しています。つまり炎症が盛んに起こっているということです。炎症が起こっているので、発熱しているのかなと思います。
他に考えられるのは低酸素状態によって臓器が壊死してしまいます炎症が起きているのかなどです。
結果、色々調べたのですがわかりませんでした笑
獣医師さんでこのブログ見ている人いらっしゃいましたら教えて頂ければ幸いです笑

NRIMA(非再生性免疫介在性貧血)の症状では
本症例のように非再生性の貧血を示す疾患で、非再生性免疫介在性貧血という病気があります。
この病気の特徴的な症状として今一度調べ直したのですが、「発熱を呈す」と記載されているものが無く、詰みました笑
もしかしたらNRIMAにおける発熱という所見は特異度が低いのかもしれません。つまり、「発熱がNRIMAを疑う特徴的な症状とはならない」ということです。

 

ちょっと違うが、猫のIMHAでは
ちょっと病気自体が異なるのですが、本症例と似たような疾患でIMHAというものがあります。
猫のIMHAではHtが12%程度であっても低酸素や全身性炎症反応、血液凝固能亢進などは起こりにくいそうです。
なので、炎症によって発熱しているのかどうか分からなくてなりました笑
以下引用元

A mean hematocrit of 12% was reported in cats with primary IMHA. In our study, 79% of the cats had severe anemia (PCV,15%). Often, because the major signs such as lethargy and inappetence are non specific, cats are only presented in a late stage of the disease. Moreover, cats appear to tolerate low hematocrit values better than dogs. 引用文献:Primary immune-mediated hemolytic anemia in 19 cats: diagnosis, therapy, and outcome (1998-2004).

 

【脱水している?】

『道具不要!簡単にできる脱水の評価方法』

脱水を評価する主な方法として4つの方法をご紹介します。

道具不要!簡単にできる脱水の評価方法
①ツルゴール
②CRT(毛細血管際充満時間)の測定
③可視粘膜の湿潤度
④眼球の落ち込み具合
①~④の検査は手と目さえあればできちゃうとても簡単な脱水の検査方法です。

①ツルゴール

皮膚を引っ張って、元に戻るまでの時間を測るものです。正常時はすぐに戻り、ピンと張るでしょう。詳しくは「ツルゴール 猫」などでググってみて下さい。

②CRTの測定

歯肉を親指でグッと押してみて一瞬白くなりますが、それが元に戻るまでの時間が1秒以下かを調べる試験です。詳しくは【図1】を参照

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【図1】CRTの測り方

③可視粘膜の湿潤度

平たく言えば、「口の中が湿っているか」を調べてみて下さい。脱水状態だと乾いています。

④眼球の落ち込み具合

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【写真4】眼球が落ち込み、瞬膜が目立つ

脱水が起こると眼球が落ち込んでしまうので、両目の瞬膜が目立ちます。瞬膜が突出する病気は脱水以外でもたくさんありますが、本症例の瞬膜は均一な薄桃白色で光沢がある綺麗な瞬膜なので、炎症などで瞬膜が腫れているというようでは無いようです。

瞬膜の突出時に注意すること
・片目だけ瞬膜が突出している
・赤く、腫れているようにように見える場合
など、以上の場合は瞬膜の病気である可能性があるので注意しましょう。

 

【血液検査結果を元にまとめると】

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【写真5】血液検査(CBC)の結果

『貧血はある』

RBC(赤血球数)、HCT(ヘマトクリット)の項目を見て下さい。
これらの結果から貧血が起こっているのが分かりますね。

貧血の種類
次にMCV(平均赤血球容積)とMCHC(平均赤血球内血色素濃度)を見てみましょう。
これら2つの高低で貧血を分類することができます。
詳しい分類は【表1】をご覧下さい。

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【表1】貧血の形態学的分類と原因

本症例ではMCV、MCHC共に正常なので"一応"『正球性正色素性貧血』という枠に分類されます。"一応"とつけたのはこの分類法はざっくりした分類なので、バシッと分類できるようなものでもないからです。

正球性正色素性貧血では赤血球の産生がされていないパターンの貧血が多いです。
というのも、未熟な赤血球は成熟赤血球よりも体積が大きく、未熟な赤血球が骨髄から血液中に動員されている場合は『大球性』の貧血になりやすいからです。

『白血球が増えている』

次にWBCを見て下さい。WBCとは白血球数という意味で、白血球とは何かを攻撃するときに増加する細胞です。その攻撃対象が抗原(ウイルス、細菌)であったり、自分の細胞であったりします。

MONOめっちゃ高い
MONOが増えている原因として二つ考えられます。

その一つは『実際にMONOが増えている』
めちゃくちゃ跳ね上がっている『MONO』という細胞。MONOとは単球といって、白血球によって破壊された細胞を食べて回収するゴミ収集車のような役割をしています。
MONOが上がっているということは「何かが破壊されて、何かが食べられている」ということを示唆しています。

もう一つは『血球計算機のミスでリンパ芽球を数えている』
この血液検査の機械は細胞の大きさや形などから、血球の分類しカウントしています。似たような大きさの細胞は数え間違えてしまう可能性があるのです。
単球は大きな細胞です。それと同様、リンパ芽球という細胞も大きな細胞です。
リンパ芽球はリンパ球の子供のような細胞で、リンパ腫の場合に血液中に見られることがあります。
本症例では縦隔型リンパ腫を現疾患に持っていることから、もしかしたらリンパ芽球がめちゃくちゃ増えているせいなのかもしれないです。

そう考えれば、本症例の貧血の原因に『リンパ腫の骨髄癆(ろう)』が鑑別疾患に上がります。僕は骨髄癆の可能性も十分にあると思います。

 

『血小板(PLT)がめっちゃ低い』

拭い去れない骨髄癆の可能性
これらのデータと臨床症状を頂いて、最初はNRIMAの可能性を疑っていましたが、NRIMAでは血小板の低下はあまり見られないどころか一般的には血小板が上昇する傾向にあります。
PLTが低い原因が下がっているという点から、先ほども書いた『骨髄癆(ろう)』の可能性がある気がします。リンパ腫が骨髄まで浸潤しており、骨髄で造血能力がなくなりかけていたのでは無いでしょうか?

症状だけ見るとSFTS(重症熱性血小板減少症候群)
マダニが媒介するSFTSウイルスに感染することで、起こる病気で
・発熱がある
・血小板数が低下する
・急性に進行し、致死する
などの症状から見るとSFTSの可能性もなくは無いです。

ですが、このウイルスはマダニ媒介性のウイルスなので、駆虫薬を与えていたり、完全室内飼いの猫ではあまり考えにくい病気です。

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 【写真6】血液検査(生化学)の結果

『腎数値、BUNとCreを考察してみた』

BUNだけが上がる理由
皆さま、ご存知だと思いますが腎臓のマーカーとしてよく注目されるのはBUNとCreです。通常、腎臓のろ過能力が約40%低下するとCreが上昇し、75%低下してやっとBUNが上がってくると言われています。つまり、腎臓が悪い時はCreが先に上がります。

本症例ではCreが上昇せず、BUNのみが上がっていますね。
実はこれ脱水が原因なんです。

この理由を理解するのは多少基礎知識が必要です。
ざっくり言うと、

「Creは再吸収されないけど、BUNは再吸収される」

がキーワードです!!
脱水している時って身体からするとできる限り水分(尿)を出したくないですよね?
そのために腎臓では再吸収という過程を強化します。

再吸収によって一回尿にしたものをもう一度吸収し、体の水分を維持します。
その時、Creは再吸収されないのですが、BUNは水分と一緒に体内に戻されます。
よって脱水時にはBUNだけが再び血液を循環し、血液検査で高値を示すのです。

 

【考察まとめ】

 症状と検査結果だけを元に色々と考察してみました。

僕が考えている主疾患は
・NRIMA(非再生性免疫介在性貧血)
・リンパ腫の骨髄癆(ろう)による造血能の破綻
・SFTS感染症
です。

自分中で一番有力な説
主疾患としてNRIMAが起こっていて、その他に何か感染症が起こっていたのではないかと考えています。

オタ福の推理

NRIMAと何らかの感染症により、非再生性貧血と発熱が起こる

不明熱があるものの自己免疫疾患による発熱と考え、とりあえず非再生性貧血を軽減するために免疫抑制剤としてプレドニゾロンを処方

NRIMAの治療のために行なったプレドニゾロンの免疫抑制がかえって感染症を悪化させる

貧血はやや改善したものの、感染症が悪化し、敗血症からDICや多臓器不全に陥る

急性の経過を辿って、亡くなった。

これが僕の推測です。これなら発熱の原因や血小板数の減少、貧血の原因など、説明がつくはずです。
もちろん正解ではありません。
他に考えられる可能性がある方はぜひ、コメントの方までよろしくお願いします。

【謝辞 -写真提供者さんのご紹介-】

Rinyanさん
わはにゃちゃんの飼い主さん
Twitter:

わはにゃちゃん

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写真のご提供、誠にありがとうございました。

【貧血に関する記事はこちら】

『血液検査結果から見る「貧血」について』

www.otahuku8.jp

『IMHAについてはこちら』

www.otahuku8.jp

 

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